シリコーン徹底解説
シリコーンとはシリコーンとは、メチル基などの有機基を持つケイ素原子がシロキサン結合 (Si-O-Si) によって連なってできたポリマーです。その形状からシリコーンオイル、シリコーンエマルジョン、シリコーンゴム、シリコーンレジンおよびシリコーンパウダーなどがあります。
「シリコーンあれ?コレ?」では、シリコーンの基礎知識をわかりやすく、イラストを交えて解説してます。以降の記事では専門的な内容も含まれますので、最初にお読みいただくことで理解しやすくなります。ダウンロードしてご利用ください。
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「シリコン」と「シリコーン」は異なる物質です。それぞれの違いを説明します。「シリコン」は元素記号Siで表されるケイ素を意味し、暗灰色をした金属状のもので、半導体用シリコンウェハー、鉄との合金であるフェロシリコンなどがその例です。一方「シリコーン」は、先にも述べたようにケイ素原子と酸素原子がシロキサン結合(Si-O-Si)によって連なってできた骨格にメチル基などの有機基が結合したポリマーであり、有機性と無機性を兼ね備えたユニークな化学材料です。
ちなみに、英語では「シリコン」をsilicon、「シリコーン」をsiliconeと綴ります。19世紀後半、実験室で合成されたシリコーンの化学式R2SiOがケトンのR2COに似ていたことからsilico-ketone(ケイ素のケトン)と呼ばれ、さらにこれが縮まってsiliconeと呼ばれるようになりました。
熱に強いポリマー材料として、シリコーンとともによく引き合いに出されるものにフッ素樹脂があります。この2つの材料はまったく異なる化学構造を持ちながら、特性的に多くの共通点があるところが面白いです。おおざっぱにいうと、有機ポリマー分子を構成する2つの主要元素である炭素と水素のうち、炭素を部分的に無機性のケイ素で置き換えたものがシリコーン、水素の大部分を無機性のフッ素で置き換えたものがフッ素樹脂です。
いずれも有機物と無機物の合いの子といえますが、シリコーンの分子はケイ素と酸素からなる無機質の芯に有機質である炭化水素のさやがあり、一方フッ素樹脂の分子は炭素と炭素の有機質の芯に無機質のフッ素のさやがあるという、まったく対照的な構造になっています。シリコーン特有の性質については詳しく述べると、シリコーンはフッ素樹脂に比べると、その生まれつきの性格によってオイルやゴムのような軟質系製品の種類が豊富であり、またモノマー化合物(シラン化合物)の応用分野も広いです。これらがシリコーンの最も得意とする領域であるといえます。
シリコーンとは、有機基を持つケイ素がシロキサン結合 (Si-O-Si) によって連なってできたポリマーを指します。天然には存在せず、完全に人工的に合成されたものです。
シリコーンはその性状から、オイル、ゴム、およびレジンの3つの基本形に分類されます。それぞれがシリコーン分100%のポリマーとしてだけでなく、使用目的に応じて他の材料を配合した複合物として製品化されており、その製品の種類は数千にも及びます。図1・1・1にシリコーン製品の形態別分類を示します。
有機ケイ素化合物は、有機基が直接結合したケイ素を含む化合物全体を指します。一方、シリコーンはその一部に過ぎませんが、慣用的にはシリコーンが有機ケイ素化合物全体を指すこともあります。本サイトでは、シリコーン以外の工業的に重要な有機ケイ素化合物についても取り上げています。特に、オルガノクロロシランはシリコーン製造の中間体として重要です。
シリコーンの基本的な性状であるシリコーンオイル、シリコーンゴム及びシリコーンレジンがどのように異なる分子構造をとっているのかを以下に説明します。
シリコーンオイルは、図1のように直鎖状にシロキサン結合が連なった分子構造から成ります。
炭素-炭素結合の結合角に比べシロキサン結合のそれは大きいため、自由にシロキサン結合鎖は動き回ることができます。その結果として流動性つまり液体の性質を示します。
しかしシロキサン結合鎖が長くなるほど動きにくくなり、その結果として粘度は高くなります。具体例としては、図1のRがメチル基のオイルにおいては、重合度 (Siの数) 2のものは常温でおよそ0.65cSt、重合度2000のものはおよそ50万cStになります。
シリコーンゴムは、直鎖状のシロキサン結合を持つシリコーンの一部が架橋した図2に示すような網状構造を持つ分子から成ります。その架橋点は、通常数百個の R2 SiOユニットごとに1個というゆるい構造になっており、その結果分子鎖の相互移動はある程度拘束されるものの、その分子の自由度は依然として大きいため伸び縮みでき、 結果としてゴムとしての性状を現わします。
代表的なシリコーンゴムとして、ミラブル型シリコーンゴム (熱加硫型シリコーンゴム)と液状シリコーンゴムゴム(以前はRTV シリコーンゴムと総称された)があります。
前者は、シロキサン結合鎖を極端に長くしたシリコーンオイルの分子構造と類似のパテ状ポリマー(重合度5,000~10,000でシリコーン生ゴムと呼ばれます) に有機過酸化物などを配合し、加熱して架橋させるタイプです。後者は末端に反応性をもたせたシリコーンオイル状ポリマー (液状シリコーンゴム用ポリマー) に架橋剤を加えて、室温下または熱や紫外線の刺激により架橋させるタイプです。
シロキサン結合鎖の架橋密度を極端に高くしたのがシリコーンレジンで、その分子構造は図3に示すようです。製品として提供されるシリコーンレジン、シリコーン塗料や成形用シリコーンレジンには、架橋が充分に進行しない状態のプレポリマーが使われており、使用時に触媒や熱を加え前記の網目構造を完成(硬化)させます。
以上がシリコーンの3基本形ですが、現在では市場ニーズに合うよう新たな有機基Rを持つシリコーン、充填剤やその他の配合剤を変えたシリコーンや新たな分子構造をもつ機能性シリコーンが数多く開発されています。
一般に合成高分子材料は、分子量10,000以上の巨大分子(ポリマー)の集合体です。ポリマーは同形の小単位が繰り返された化学構造を持つことが特徴で、ポリマーを合成するには、まずその小単位のもと(モノマー)を作り、次いでそれを化学結合で結び合わせていく方法が一般的です。
シリコーンの場合、基本となる小単位の主なものは図1・1・6に示す4種類です(4官能型の〔SiO₂〕は有機基を含んでいませんが、架橋成分として重要です)。これまでに述べたオイル、ゴムおよびレジンの分子構造を見れば、これらの小単位がどのように組み合わさっているかが容易に理解できます。
分子を組み立てる際に、これら4種類の小単位の構成比率を変えることで、シリコーンの性状に違いが生じます。
図1・1・6に示した構成単位のうち、1~3官能性のものはオルガノクロロシランと呼ばれる一連の有機ケイ素化合物をもとにして作ることができます。ここでいうオルガノクロロシランは一般式RnSiCl4-n(n=1~3)で表される化合物です。シリコーン研究の初期には、これらの化合物を合成するために様々な化学反応が用いられていました。
しかし、シリコーンのモノマーとして最も有用なメチルクロロシランおよびそれに次ぐフェニルクロロシランについては、経済的に有利な「直接法」と呼ばれる合成法が1940年に米国のGeneral Electric Co.によって発明され、初めて商業ベースでの製造が可能になりました。
直接法とは、炭化水素の塩化物(RCl)と金属ケイ素(Si)を高温で直接反応させ、対応するオルガノクロロシランに変える反応です。例えば、メチルクロロシランは次の式に示すように、塩化メチル(CH₃Cl)とケイ素(Si)から合成できます。
この反応は工程上は1段階で済むため簡単ですが、反応の内容そのものは非常に複雑であり、クロロシランを含め多種類の生成物が副生します。この塩化メチルとケイ素、Cu(触媒)の混合物から有用なクロロシランを単離するために、通常はこの直接法による合成工程の後に蒸留工程が続きます。
蒸留で単離するためには、成分の沸点差が大きいほど有利ですが、メチルクロロシラン類は相互の沸点差が少なく、特にCH₃SiCl₃と(CH₃)₂SiCl₂はそれぞれ66℃と70℃で、その差がわずか4℃しかありません。そのため、これらを分離するには高さ100mにも及ぶような高分離能の蒸留塔が必要です。
なお、シリコーンゴムの架橋、有機材料とのコポリマー化、接着性付与、耐油性付与などには特殊なモノマー、例えばビニル、アミノプロピル、トリフルオロプロピルその他の特別な有機基を持つシラン類が必要です。これらは直接法では合成できないため、一般の有機合成化学の手法によって製造されています。
前記のようにして合成・単離された各オルガノクロロシランは、単独で、または適当な割合で混合され、水によって加水分解を受けます。次の式に示すように、この工程でシラノール(SiOH)が生成されますが、このシラノールが脱水縮合すると、シリコーンの基本骨格であるシロキサンになります。
このことから類推できるように、図1・1・6の基本構成単位〔R₃SiO₁/₂〕、〔R₂SiO〕および〔RSiO₃/₂〕は、RがCH₃の場合、それぞれ(CH₃)₃SiCl、(CH₃)₂SiCl₂およびCH₃SiCl₃から作られます。これらをオイル、ゴムおよびレジンの化学構造と対比すると、オイルには(CH₃)₃SiClと(CH₃)₂SiCl₂、ゴムには(CH₃)₂SiCl₂、レジンには(CH₃)₂SiCl₂とCH₃SiCl₃がそれぞれ原料として使用されることが容易にわかります。なお、4官能型の〔SiO₂〕はSiCl₄、正ケイ酸エチル、水ガラスなどを原料として作られ、レジンなどに使用されます。
これまで、最も重要なメチル基を持つシリコーンについて説明してきましたが、フェニル基を持つものについても同じような考え方を適用することができます。
さて、このようにして製造されたシリコーンポリマーは、さらに二次加工されて製品となる場合が多いです。例えば、シリコーンオイルはそのまま製品となるほか、使用目的に応じて水、乳化剤、溶剤、充填剤などが配合されて、エマルジョン、溶液、オイルコンパウンド、グリース、ワックスなど、いわゆる二次製品に加工されます。
また、シリコーンゴム用のポリマーは、充填剤、加硫剤、硬化剤などが配合されて、ミラブル型シリコーンゴムコンパウンドや液状シリコーンゴムコンパウンドとして製品化されます。さらに、シリコーンレジンは溶剤に溶かされてシリコーンワニスとなり、顔料や充填剤が配合されて塗料や成形用レジンになります。
以上がシリコーン製造法の概要で、ごく単純化した道筋だけを述べました。シリコーンの製造工程の概略を図1・1・7を以下に示します。
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