シリコーン徹底解説

シリコーンの性質

シリコーンの性質

 

シリコーンの分子骨格はケイ素Siと酸素Oからできており、この点が炭素Cを主体とした骨格をもつ一般の合成高分子とは本質的に異なっています。そこで、CとSiの原子の性質を対比しながら性質にどのように影響するか考察します。

 


ケイ素原子の性質

まず、C(炭素)とSi(ケイ素)を表1・1・1の周期律表で比較してみると、両者はともにIV族に属しており、Cは第2周期、Siは第3周期に位置しています。このため、性質が非常に似ていることが推定されます。実際、どちらも原子価(結合手の数)は4であり、化学結合の様式も同じです。その4本の結合手は、図1・1・8のように、原子を中心とする正四面体の4つの頂点方向に向いています。しかし、第3周期の元素は第2周期の元素に比べて、ひとまわり大きい電子軌道群を持っているため、この点で両者の相違が現れます。

 

表1.1.1 元素の周期律と電子配列 表1.1.1 元素の周期律と電子配列

 

まず第一に、C(炭素)とSi(ケイ素)の大きさの違いがあります。図1・1・8に示すように、Cの共有結合半径(結合手の長さ)は0.77Å(1Å=10^-10m)であるのに対し、Siのそれは1.17Åであり、およそ1.5倍の差があります。

次に、電気陰性度(ある原子が分子中で隣接する原子の電子を引き寄せ、自身が負に帯電する傾向の大きさ)を比較すると、表1・1・2に示すように、SiはCに比べて小さく、むしろ金属のSn(スズ)に近い値を示しています。これにより、Siは分子中で正電荷を帯びやすいことがわかります。

さらに、SiはCと異なり、二重結合や三重結合を形成する傾向が非常に小さいことや、SiはCが持たないd軌道(電子軌道の一種)を空の状態で持っているため、4つの原子価が満たされても、他の原子の電子を空のd軌道に引き込んで結合しようとする傾向(いわゆる配位結合性)を持っていることなどが、CとSiの大きな違いです。

 

シリコーンの化学的性質

次に、上記のCとSiの違いとシリコーンの化学的性質との関係を考えてみましょう。この場合、シリコーンとしては、構造が最も簡単な直鎖状のポリジメチルシロキサン(末端基以外はポリジメチルシロキサン構造〔(CH₃)₂SiO〕になる)を例に話を進めます。

シリコーンの最もよく知られている特長は、熱や酸化に対して強いことです。この性質がどのような原因によるのかについては、まだ完全には解明されていませんが、以下のように説明されています。まず、化学結合の強さの目安となる結合エネルギーを表1・1・3で見ると、シリコーンの骨格となっているSi-Oの結合エネルギーが他に比べて大きいことがわかります。これは、SiとOの電気陰性度の差が大きいため、Si-Oがイオン結合に近くなり、エネルギー的に安定化されていることが原因の一つと考えられます。このことから、Si-O結合が熱に対して強いことが予想されます。これは、Si-O結合を主要成分とする岩石類を考えても容易に類推できます。

次に、Si-C結合について見ると、結合エネルギーの点ではC-CやC-Hより小さいですが、現実には逆に安定しています。その理由として、-CH₂-CH₂-が高温で脱水素反応により不安定な-CH=CH-を生じ、ここを起点として分解が波及するのに対し、Si-Cでは相当するSi=Cができにくいことが挙げられます。

さらに、Si-CH₃のC-Hが炭化水素のC-Hよりも化学的に安定であるのは、骨格Si-Oのイオン性の影響で、逆にC-Hのイオン性が減少し、他の分子の攻撃を受けにくくしているためと考えられています。なお、Si-CH₃内のC-Hのイオン性が異常に小さいことは、赤外吸収の強さからも立証されています。

シリコーンの耐熱性、耐酸化性が良いこと、つまり高温で使用できることは、実用上重要な特長の一つです。

一方、シリコーンの主鎖を構成しているSi-O結合にイオン結合性があることが、シリコーンの耐加水分解性にとって好ましくない影響を与えることは否定できません。特に、加水分解反応の触媒として作用する酸や塩基、またはある種の金属化合物の存在下で高温の水蒸気や熱水に触れると、シリコーン分子は解重合を起こし、低分子量化します。例えば、いったん加硫したシリコーンゴムを密封状態で加熱したり、高温高圧の水蒸気中に置くと、いわゆる加硫戻りと称する現象を起こして軟化します。活性の高い加硫剤を使用したゴムほどこの傾向が大きいです。

 

表1.1.3 総合エネルギー 表1.1.3 総合エネルギー

シリコーンの物理的性質

シリコーンオイルの表面張力は、表1・1・4に示すように他の液体と比べて特異的に低いことが知られています。表面張力は分子同士が引き合う結果生じる力で、表面積をできるだけ小さくする方向に働きます。この力があるために液滴は球状になろうとしますが、シリコーンはこれが弱いため物体の表面に薄く広がっていく傾向があります。

この表面張力が低いことは、分子間の引力が小さいことに由来します。それでは、なぜシリコーンオイルの分子間引力が流動パラフィンなど他の液体と比べて特異的に小さいのでしょうか。その原因を分子構造から考察してみましょう。

図1・1・8から推定できるように、ポリジメチルシロキサンは原子価角(結合手の間の角度)に従って立体的なジグザグ構造をとっているはずです(図1・1・9)。これは炭素の連鎖を骨格としているパラフィンも同様です(図1・1・10)。

 

 

しかし、パラフィンの骨格であるC-C結合は、ほとんど極性を持たない純粋な共有結合であるのに対し、Si-O結合は、SiとOの電気陰性度の違いにより、結合に関与する電子が偏っており、共有結合Si-Oとイオン結合Si⁺O⁻の中間の状態にあることが大きな違いです。

純粋な共有結合では、原子価角は厳格に定まっており、この角度をわずかに変えるにも大きなエネルギーを必要としますが、純粋なイオン結合では定まった原子価角はなく、任意の方向で結合することができます。両者の中間の状態とは、一応原子価角は定まっているが、小さいエネルギーでこの角度を変えられることを意味しています。言い換えれば、C-C-C結合は硬い結合であるのに対し、Si-O-Si結合はしなやかな結合であるということができます。

このため、ポリジメチルシロキサンでは(CH₃)₂Si単位が比較的大きな振幅で熱振動を行うので、勢力範囲が大きくなり、隣の分子をあまり寄せ付けなくなります。つまり、分子間の平均距離が大きくなり、分子間引力は距離とともに急激に減少する性質があるため、ポリジメチルシロキサンの分子間引力は大きくなれないのです。

また、ポリジメチルシロキサンは、CH₃が外側に並んでおり、前述のように、C-Hの極性がSi-Oの影響でパラフィンのC-Hよりも小さくなっていることも、分子間引力が小さい原因の一つです。シリコーンオイルやシリコーンゴムは耐寒性が優れており、固化点が低いです。これは分子間引力が低いことが一因となっています。

図1・1・11に示すように、直鎖状ポリジメチルシロキサンと直鎖状パラフィンの固化点を比較すると、固化点には分子間引力だけでなく、分子の対称性や分子の屈曲性が関係してくるため複雑な曲線になりますが、分子量が大きくなるに従い、直鎖状ポリジメチルシロキサンは-50℃前後でほぼ一定になり、直鎖状パラフィンは100℃より少し高いところで落ち着く傾向があります。これらの温度がそれぞれの分子鎖に特有な固化点であると考えられます。

 

図1・1・11 分子量と固定化との関係 図1・1・11 分子量と固定化との関係

 

さらに、シリコーンの特徴的な性質として、さまざまな物性値の温度依存性が小さいことがよく知られています。例えば、ジメチルシリコーンオイルの粘度の温度による変化は、鉱物油に比べて小さく(図1・1・12)、またシリコーンゴムの引張強さにも同様のことが言えます(図1・1・13)。これは、もともとポリジメチルシロキサンの分子間距離が大きいため、温度上昇による分子間距離増加の影響が有機材料に比べて相対的に小さいことと、低温で丸まっていた分子(コイル状になっているとも言われる)が温度の上昇とともに伸びるため、分子間引力の減少が補われることなどが原因と考えられます。

そのほか、ポリジメチルシロキサンは圧縮率が大きいですが、これも分子間距離が大きく、いわば隙間だらけの構造をしていることを考えれば理解できます。これに関連した性質として、シリコーンのガス透過性の高さが挙げられます。一般にシリコーンゴムおよびシリコーンレジンは、有機ゴムや樹脂に比べて桁違いにガス透過性が大きいです(表1・1・5)。シリコーンゴムの場合、圧縮によりガス透過性が減少することが認められますが、これも当然のことです。

 

図1.1.12 粘度の温度による変化 図1.1.13 引張強さの温度による変化 図1.1.12 粘度の温度による変化 図1.1.13 引張強さの温度による変化
表1・1・5 各種材料の酸素透過性 表1・1・5 各種材料の酸素透過性

 

シリコーンの実用上重要な性質として、表面の撥水性および非接着性(離型性)があります。これらの性質も、冒頭に述べた表面張力の低さと同じ原因から来ています。つまり、シリコーン分子同士の引力が弱いのと同様に、水など他の分子に対する引力も弱いのです。このため、シリコーンの表面では水が球状の滴となり、プラスチックや粘着ラベルなども接着せず、容易に剥がすことができます。

また、同じ理由により金属などに対する親和力(密着力)もあまり強くありません。そのため、通常のシリコーンオイルを金属間の潤滑油として使用すると、摩擦面が極圧状態になると油膜を保持できず、潤滑力を失います。このため、特別に潤滑性を付与していないシリコーンオイルは、金属間の潤滑剤としては不向きです。

さらに、シリコーンゴムやシリコーンレジンの最大の弱点は機械的な強度が劣ることです。これも分子間引力の小ささが原因です。

 

以上、シリコーンの性質と分子構造との関連について述べました。一見無関係に見えるシリコーンの性質の大半が、Si-O-Si結合の強いイオン性とそのしなやかさに起因しています。さらに、このことを突き詰めると、周期律表におけるSiの位置がシリコーンの特徴のすべてに関連していることがわかります。